【司法書士が解説】エンディングノートの書き方・生前対策の備え方
「エンディングノート」や「遺言書」
いつかは備えておこうと一度は考えるものの、「まだ早いかも・あまり考えたくない」と、後回しにしてしまう方はどの年代を問わず多いかと思います。
でも実は、「終活」や「エンディングノート」などの登場から、少しずつ自分の将来や身近な人たちとの終わりについて、前向きに備える方が増えているのはご存知でしょうか?
今回はつい距離をおいてしまう生前対策の気軽な第一歩「エンディングノート」について、
生前対策に力を入れて活動をされている、大阪の司法書士「中川哲男(なかがわてつお)さん」に解説していただきました!
生前対策や相続について知識があまりなくて危機感を感じている、ライターのフルカワが実際に「エンディングノート」を書きながら、気になる部分を初心者目線でご質問したいと思います。
本日はよろしくお願いいたします!
よろしくお願いいたします。大阪で活動中の司法書士の「中川哲男」です。
これから備えたい、という若い世代の方にもわかるように優しく解説していきますね。
【前編】まず知ろう!エンディングノートの書き方
【後編】相続を知ろう!遺言書の書き方
エンディングノートの解説を中心とした前編。
エンディングノートを書いた次のステップとして知ってほしい「遺言書」や、相続などの手続きについて解説する後編の、2本構成となっています!
ぜひ2本、続けてご覧ください!
司法書士の中川哲男さんに「エンディングノート」についてお聞きました!
エイト司法書士事務所 代表 司法書士 中川哲男さん
大手司法書士事務所にて勤務するさなか、自身の祖母の相続争いを経験。それを機に自身の仕事や人生に対して深く向き合うこととなる。その後、事務所を退職し、エイト司法書士事務所を開業。
徹底的に依頼者の想いに向き合う【生前対策業務】を中核業務に据え、相続争いを一件でも減らすことをライフワークとし、関西圏を中心に精力的に活動中。
大阪司法書士会から配布中のノートで解説!
今回は中川さんも所属されている「大阪司法書士会」のHPで配布されている、エンディングノート(PDF)をお借りします。無料でダウンロードできるなんて知らなかったです…。
参照リンク:
大阪司法書士会 エンディングノート配布
大阪法務局と大阪司法書士会が共同で作成したものですね。
僕自身が作成に関わったわけではありませんが、とてもありがたいです。
必要最低限の項目がまとまっているので、気軽に取り組めるボリュームだと思います。
ホームページも拝見しましたが、シン・ゴジラとコラボしたポスターなど親しみを感じるものが多いですね!もっと堅い印象があったので以外です。私も大阪出身なので関西弁を見ると安心します。
司法書士に限らず僕らのような専門家は、トラブルや困ったことが起きないとご縁がないことも少なくありません。
エンディングノートも固有名詞として、昨今は多くの人に定着しつつあります。
こうしたところから知っていただいて、考えるきっかけにしてもらえると僕たちは嬉しいです。
第一部:自分の情報を書き残す
では実際にエンディングノートを書きながら、質問をしたいと思います。
全国の30代独身女性のみなさんのご期待に添えるように頑張ります。
年配の方が書くものと思われている方も多いと思いますが、遺言書までいかずとも、若いうちから自分の情報を整理するのはとても良いことです。
一つ一つ見れば難しいことはありませんから、ぜひ興味を持っていただけると嬉しいです。
専門家からみたエンディングノートを書くメリット
中川さんは遺言書作成などを始めとした「生前対策」に特化されていますが、エンディングノートを書くメリットはどんなものがありますか?
専門家としてまず大きなメリットと言えるのは「財産」の部分です。
ご家族や兄弟、親戚の方の銀行口座や預金など、そういった部分を把握している方は少ないと思います。
例えば配偶者の方や一緒に暮らしている方であっても、ご本人以外が銀行口座を調べたり動かすのはとても大変です。
いくつ持っているかもわからないとなると、大変な手続きになることも少なくありません。
たしかに家族でも全員の口座や残預金など、プライベートな部分でもあり把握していないですよね。
あとは法的な効力はなくても、身近な人やご相続人の方に向けて感謝や自分のメッセージを残せるのも大きいですね。
例えば「家族みんなで仲良くしてね」という一言があるだけでも、ご相続人さんが争わないで済む、精神的な支えになることもあります。
自分の思い出やメッセージを書ける項目もありますね。
情報だけじゃなくて気持ちや意志を書けるのも大切なんですね。
残したから必ずその通りにしてもらえるかは、相続人さんの判断による場合もありますが、まずは情報・希望を残すことが大切ですね。
最近のご相談では、ご両親や身近な誰かに見られたくないプライベートなものを書くことも、これからは需要が高くなるかもしれません。
ちょっと心当たりが…。趣味の画像フォルダやSNSなどは、できれば見ずに処分・削除してほしい……。
見ないでほしい、に関してはご遺族の方を信じるしかありませんが、中身や扱いがわからないものは確認せざるをえませんからね。
意思表示を残すのは、こうした視点からも大切です。
- 個々が持っている財産を残された人が把握することができる
- 突然の事故などがあったときに、自分の意思や要望を残せる
- 定期的に見返す・書き換えることで状況の整理がしやすい
エンディングノートの個人情報をPDFやデータ上で残してもいい?
エンディングノートの情報をデータで残すのは専門家からみてどうですか?
市販のエンディングノートも多くは手書きが前提ですが……。
紙でもPDFでも結果・効果としてはあまり変わりません。
データで残すデメリットを上げるなら「発見できない」可能性が高いことです。
例えば、ロックされたスマホやパソコンにデータがあっても、ご遺族の方が見つけられない可能性が非常に高いです。
たしかに、パスワードや解除法を残していなかったら、誰もデータを見れませんね。仮にロックを解除できても、どこにあるか知らなければ探すことに…。それは大変かもしれません。
もちろん紙、冊子でも起こり得ることですが、探しやすさの点では実物がある方が発見しやすい傾向はあります。大切なのは「エンディングノートを書いた・自分の情報をわかる形で残すこと」です。
後述しますが、こうした紛失やトラブルを防ぐために遺言書の場合は、行政や司法書士が管理を承る方法があります。
エンディングノートは「遺言書」のように法的な効力はない
エンディングノートを「遺言書」として使うことはできますか?
なんとなくエンディングノートを書いて満足しそうな方もいそうです。
エンディングノートは、遺言書としての力つまり法的な効力はありません。
遺言書は法的に書き方が決まっていますから、それに沿っていないと、正式な遺言書とは認められないですね。
では書いても無駄なのかというと、そんなことはありません。
意思表示をするきっかけになりますし、遺言書作成の初期ステップにも効果的です。
エンディングノートから派生して遺言書を作ることも多いですよ
エンディングノートはあくまで「自身の意思表示」を助けるもの。そして遺言書をつくる前段階としてもオススメということですね。
はい、そうです。いきなり「遺言書」を書きましょうと言われても、大半の方は戸惑いますからね。
その点でもエンディングノートは気軽に始められますし、もしもの備えと思って取り組むとよいと思います。
いつでも書き直せますし、定期的に見直すとさらにベストですね。
なるほど、防災の備えのようなイメージが湧きました。
後の「相続」の部分にも関係しますが、残された方・相続人としても故人の気持ちを組んで対応したいと考える方も多いですし、判断を手助けする材料にもなります。
気持ちを伝えられるものを残しておくだけでも、とても価値があると思います。
- エンディングノートは「遺言書」のような法的な効果は持たない
- エンディングノートを書いた・自分の情報をわかる形で残すことが大切
- 自分の意思表示として情報やメッセージを残すことで相続人の支えになることもある
自分の宗教がわからない・こだわらないときはどうする
葬儀や宗教について書く欄もありますね。
特にこれといった宗派に所属していないときはどうしましょう?
葬儀に関しては、こだわりのある方は事前に決めている方が多いです。
逆にこだわりがない場合は、ご家族の希望に合わせたり、お墓をお持ちでしたらそこへ。ということもありますね。
このあたりは、葬儀屋さんと提携して決められる方も多いです。
たしかに最初にお世話になるのは葬儀社さんになりそうです。
生前のうちから費用を積立できるところもありますもんね。
多いご相談としては、お葬式をしないでほしい、家族葬にしてほしいなど、宗派より葬儀の形式を書いてもらうと助かる場合も多いです。
葬儀についてのページもありますので、そこで整理すると良いかと思います。中には海に散骨してほしいなどの要望もあったりしますから。
なるほど、お葬式の形もいろいろありますもんね。
親族が亡くなった時は、実家がお付き合いがあったご住職さんにお任せしましたが、私自身もこだわりはない方です。推してるお寺はあるんですが……。
もしフルカワさんが推しているお寺のやり方で、お葬式をやりたいとしたら「死後事務委任契約」という制度もあります。
これはご本人様と生前に契約を行うので、事前に決めた希望に沿って対応を行いますね。
そうした契約が…!
生前対策ではこうした事務的な部分もサポートしていただけるんですね。
相続の面でも役所関係の手続きはとても多いです。
四十九日が終わるまでに行ったほうが良い手続きもありますから、遺言書と合わせて司法書士にもご相談いただければと思います。
ご遺族の方のご負担を減らせるような対応を、いつも心がけています。
- 宗派のこだわりがないときは、お葬式の形式を書くとよい場合も
- ご葬儀の費用をどうするかは生前にできるなら相談しておきたい
- 譲れないこだわりがある場合、「死後事務委任契約」を使うこともできる
連絡先は自分以外に連絡が取れない人の情報も残す
連絡先の範囲に迷ってしまいますが、どれくらいまで残しておくと良いでしょうか?
まずは何かあったとき、すぐ連絡を取りたい方は確実に書いておきたいですね。例えばご家族やご兄弟などは、一人に伝えればすぐ連絡が行き届くことが多いと思います。
ですので、家族や身内の方が知らないご友人、ご本人しか連絡がとれない人々の情報を書いている方が、良い場合もあります。
たしかに仕事先の方などは、家族にいちいち伝えていないかも…。
自分しか知らない親しい人の連絡先は確かに必要ですね。
そうですね、お仕事で関わっている人、遠方に住んでいてなかなか会えないけど親密な人などもそうです。すべてが終わってからお葬式に行きたかった、ずっと知らないままだったという話も少なくありません。
SNSやネット上の交友関係を整理するポイント
先程の連絡先の話から派生して、リアルで会ったことはないけれど、SNSでは知り合い…みたいなレベルの人には、どう伝えようか悩ましく感じます。
リアルで交友がある方と違って、どこまで伝えるかは難しいですよね。
その場合も、なんらかの対応をしてほしいときは、「ログイン情報」を残しておくことが大事です。
SNSで親族の方が亡くなったことを伝える投稿をするのも珍しくないですよね。
ここもログイン情報、他にはなにを伝えてほしいか、どう対処してほしいかを、書いておく必要がありますよね。
そうですね。逆にそういった投稿をしないでほしい、中身を見ずに削除してほしい方もおられるはずです。
また人によってはたくさんSNSアカウントをお持ちの方もおられますが、全てに対応するのはやはり大変ですので、どう扱ってほしいかの希望は残しておきたいですね。
Facebookくらいは誰かに投稿をお願いしたいですね。離れていてもお世話になった方にご挨拶はしておきたいと感じます。
WebやSNSでの情報発信が身近になりましたから、死後事務委任契約でも、今後こうした需要ができる可能性もありますね。自分のSNSやネットでの情報をどうしてほしいかも、必要に応じて書いておくとよいですね。
- SNSはログイン情報をわかるように残すことが大切
- 個人情報を伝えるSNS選びは慎重に。数を絞ることも検討しよう
- どうしてもやって欲しい要望があるなら死後事務委任契約という方法もある
自分の財産や不動産、亡くなった後について
次は「財産」について、ご質問をしていきたいと思います。
土地や不動産などの要素が多そうに見えますが…。
説明を読むと聞き慣れない用語も並んで、身構える部分もあるかもしれませんが、まずは自分の身近なものから考えてもらって大丈夫ですよ。
専門家から見る財産:金銭的に価値があるものは要確認!
改めて「財産」と言われると大層なものは持っていないかも…という気持ちになります。
どういったものが財産になるのでしょうか?
まず司法書士としては「金銭的に価値があるもの」を確認します。
銀行預金や不動産はわかりやすいですが、車やバイクなどもそうですね。売ってお金になるものも財産として考えられます。貴金属やブランド物といった故人の持ち物も対象になりえます。
もっと大きくいうなら保険なども、財産といえるかもしれません。
所持しているパソコンやゲーム機、横に詰んでる書籍など…も、個人の財産として考えられるんですね。
何も知らずに全部処分して、後の祭りになる可能性もありそうです。
パソコンや趣味のコレクショングッズなども、金銭的な価値は別にしてその方にとって価値のあるものですから。
他には家族写真や思い出の品なども、立派な財産です。
なるほど「金銭的な価値があるもの」は相続面や相続人のためにも整理しておく必要がありそうですね。それ以外の自分にとって大切なものも「財産」として、扱いの希望を残しておきたいですね。
- 専門家の視点では「金銭的に価値があるもの」は財産と考える
- 売ってお金になるものやコレクション的なものも個人の財産と見て良い
- 写真や思い出の品など金銭にならないものでも、相続人の支えになる場合もある
持ち家や賃貸物件、不動産情報の残し方
土地を所有しているかどうかを調べるには、どのような方法があるのでしょうか?
土地をお持ちであれば、毎年固定資産税の請求があるかと思います。
多くの場合はそこから調べていただくとスムーズです。
ただ固定資産税がかからない土地をお持ちのケースもあるので、なんとか住所が分かれば、こちらでお調べすることもできます。
税金がかかっておらず、わからない場合もあるのですね。
意外とご相談は多いですね。自分は知らなかったけれど家族が買っていた土地があり、調べて初めてわかったというケースもありました。
そんなこともあるんですね。
実家も賃貸に住んでいる方も多いと思いますが、賃貸の場合、どういった情報を残すとよいでしょうか?
賃貸物件はお返ししなくてはいけませんので、管理会社や家主様の連絡先はわかるようにしておきたいです。賃貸契約書などをセットでまとめておくと良いかと思います。
またお部屋に荷物が残っている場合、移動させなくてはいけませんから、そうした連絡・作業も必要になりますね。
荷物の移動に時間がかかるなら家賃の問題もありますね。銀行振込が多いでしょうし、意外と情報を残しておかないと困る場面ですね。
- 土地を持っているかは固定資産税の請求書や住所から調べてもらえる
- 賃貸の場合は、賃貸契約書や管理会社の情報を残しておくことが大切
- 賃貸は荷物の移動や清掃などの手続きや費用も事前に合わせて考えておこう
銀行口座・お金に関わる財産の情報を残すポイント
銀行口座やお金に関することは、特にしっかり残しておかないとトラブルの元になりそうな気がします。銀行口座やお金に関する情報を残すポイントはありますか?
銀行口座は使っている・使っていないに関わらず、まず書き出しましょう。
最近はネット銀行の口座も多いと思いますから、心配な方は情報を印刷するのも効果的です。
冒頭でも触れましたが、本人以外が口座を調べたりするのは難しいんですよね?
そうですね、預金の引き出しはもちろん解約もそうです。
他には株の取引や仮想通貨などのネット証券口座やウォレットがある場合も利用状況に関わらず、記録しておきましょう。
NISAや個人型年金など、銀行で積立をしている口座情報も必須ですね。
私もNISAのために証券口座を作りましたが、普段使わないのであまり記憶にありませんでした。
うっかり忘れそうな部分ですね。
他には契約している保険などがあれば、会社名や連絡先、契約書類をまとめておきましょう。
保険を受け取る、積立を止めるなど、こちらも手続きが必要なので忘れないようにしたいところです。
- 銀行口座は使用頻度を問わず、持っているものは全て書き出しておく
- NISAや株・FXなどの証券口座も情報を残す、使わないものは解約する
- 亡くなってから口座を調べる・解約は大変、事前に整理・情報を残すこと
介護や入院の情報は今の気持ちで書く、緊急時に役に立つ
急病や介護については、年齢に関係なく無関係ではないなという印象があります。
介護や病気などの希望を残すにはどの部分に気をつけると良いでしょうか。
介護の部分で気をつけたいのは、認知症や年齢を重ねてご自身での判断が難しくなってしまうと、意思表示が難しくなることです。
ですのでこうした希望は、なるべく元気なうちに書いておきたいですね。
家族とも話して決めておくきっかけにできそうですね。
病気や事故はいつおきるかわかりませんし…。
そうですね。施設を探して入りたい方、自宅での療養を希望する方など、ご家庭の数だけそれぞれの事情や要望があると思います。
また事前に書いておいても、亡くなったあとに発見されることも少なくありません。わかりやすい場所に保管しておくことも大切ですね。
病気についても同じことがいえます。特に延命治療の部分など、ご自身でも判断が難しいところだと思います。他にも信仰している宗教上、できないことがあるという場合も。やはりご本人しか知り得ないことは、いま分かる範囲で書いておくことが重要です。
状況が変わって、やっぱりこうしてほしい!と気持ちや希望が変わることもありますもんね。先のことはわからないですが、まずは希望を書いておくほうが良さそうですね。
今の状況や気持ちにあわせて書くほうがいいですね。書いたことがずっと変えられない、ということはありませんし、まずは考える・身近な人と話すきっかけにしてもらうことが大切だと思います。
- 書いたことが決定事項ではない、あくまでも希望を伝えるつもりで残す
- 突然の病気や事故は誰でも起こる可能性がある。身近な人と話すきっかけにしてほしい
エンディングノートは将来の備え!いつ書き始めても役に立つもの
エンディングノートを解説していただきながら、ここまででも自分の情報を残すことや、残し方のポイントがとても整理されてとても勉強になりました!
いつでも書き直しができますし、ご自身の状況を客観的に整理できる点からも、エンディングノートはとても便利です。ぜひ難しいと思わずに書き始めてみてくださいね。
次回はエンディングノートの書き方の続きとして「相続」や話題にも出てきている「遺言書」について解説していただきます!若い方や早くから備える方が、実は増えていると聞いてとても気になっています!
【前編】まず知ろう!エンディングノートの書き方
【後編】相続を知ろう!遺言書の書き方